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仙台地方裁判所 平成3年(わ)413号 判決

本店所在地

仙台市青葉区上杉一丁目七番一号

株式会社 フジ都市開発

(右代表者代表取締役 後藤本子)

本籍

仙台市太白区八本松一丁目一三番

住居

同市同区八本松一丁目一三番一一号

八本松マンション七〇五号

会社員(元会社役員)

後藤勉

昭和二二年五月二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石橋基耀、弁護人浅野孝雄各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社フジ都市開発を罰金三四〇〇万円に、被告人後藤勉を懲役二年に処する。

被告人後藤勉に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社フジ都市開発(以下、単に「被告会社」という。)は、仙台市青葉区上杉一丁目七番一号に本店を置き、不動産の売買及び賃貸並びにこれらの仲介などを業とする株式会社であり、被告人後藤勉(以下、単に「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括していた者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産売買益及び仲介手数料収入を除外するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、第一ないし第三のとおり法人税を免れた。

第一  昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二八九一万五二七七円であったにもかかわらず、昭和六二年五月三〇日、仙台市青葉区上杉一丁目一番一号所在の仙台北税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が零であり、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一二八一万六一〇〇円を免れた。

第二  昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七〇四九万六九九〇円であったにもかかわらず、昭和六三年五月三〇日、第一記載の仙台北税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が一一六万二三九〇円であり、これに対する法人税額が二六万二七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三四一七万三二〇〇円と右申告税額との差額三三九一万五〇〇円を免れた。

第三  昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六四八五万二八六〇円であったにもかかわらず、平成元年五月二三日、第一記載の仙台北税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が四八〇万九八四〇円であり、これに対する法人税額が一三五万二七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八一四〇万五九〇〇円と右申告税額との差額八〇〇五万三二〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述並びに第一回、第三回、第四回、第五回、第八回ないし第一一回及び第一七回各公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書一〇通及び大蔵事務官に対する質問てん末書四二通

一  証人益子光彦の当公判廷における供述並びに第一三回、第一四回及び第一六回各公判調書中の益子光彦の供述部分

一  松尾裕幸、青木昌敏、片倉勝義、門間正一、石塚順一郎、小池穹継、脇沢浩、渡辺謙治、大槻常夫、後藤浩、針生アイ、佐々木勝(二通)、千葉善男、後藤一、菅原孝男、高橋敏夫、後藤本子(二通)、松岡勝子(三通)、庄子直美、山田統太郎、大泉雅英(二通)、岩佐芳正、三栖拓也、加藤通、熊谷武志及び菊島修の検察官に対する各供述調書

一  塚原安雅、熊谷武和、保科眞一、松尾裕幸、吉成直貴、星田忠昭、片倉勝義、門間正一、小池穹継、豊川博昭、町田刀水、小松庚太郎、内山正人、鈴木雄一郎、脇沢浩、中村幸子、佐藤繁子、長谷川久芳、渡辺謙治、河津泰二、安西和吉郎、篠原君夫、大槻常夫、針生アイ、昆野勝、渡辺とみ、廣瀬友保、野呂博、小西久義、白鳥雅美、戸口稔及び鈴木丞の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察官作成の土地建物売上調査書

一  検察事務官作成の平成三年一〇月一日付捜査報告書

一  大蔵事務官作成の調査報告書二一通及び銀行調査書

一  大蔵事務官作成の不動産取引調査書、土地建物売上調査書、仲介手数料収入調査書、期首棚卸高調査書、土地建物仕入調査書、期末棚卸高調査書、旅費交通費調査書、旅費交通費(その他所得)調査書、交際接待費調査書、福利厚生費調査書、福利厚生費(その他所得)調査書、支払手数料調査書、保険料調査書、保険料(その他所得)調査書、諸会費調査書、受取利息(銀行等預金)調査書、受取利息(貸付金等)調査書、支払利息調査書、雑収入調査書、雑費調査書、未納事業税調査書、交際費の損金不算入額(その他所得)調査書、交際費の損金不算入額調査書及び土地譲渡税額調査書

一  片桐義行作成の捜査関係事項照会回答書

一  大蔵事務官作成の差押てん末書(平成三年仙地領第三二六号符合三二六、三三九の押収手続に関するもの)及び臨検てん末書

一  仙台法務局登記官佐藤栄一及び仙台法務局古川支局登記官金澤正之作成の各登記簿謄本及び仙台法務局登記官佐藤栄一作成の平成三年九月一〇日付閉鎖登記簿謄本(三通・昭和六一年六月三日、同六三年六月六日、平成二年五月三〇日各閉鎖分)

一  押収してある法人税確定申告書九綴(平成三年押第九六号の四、一〇、一二、一四ないし一七、一九及び二〇)、元帳三綴(同号の一ないし三)金融機関綴り一綴(同号の二二)及び印章一個(同号の六)

(事実認定の補足説明)

一  弁護人は、〈1〉公訴事実第一に関する検察官の冒頭陳述書に添付された不動産売買明細表(以下、単に「明細表」という。)番号一ないし八及び公訴事実第二に関する同九の各不動産売買取引にかかる不動産売買益及び仲介手数料収入等に関する所得は正確に申告しており、被告会社が法人税を免れた事実はない、〈2〉公訴事実第二、第三に関する明細表番号一〇ないし一六の取引主体は被告人であるし、各不動産売買取引にかかる仲介手数料収入に関する所得は正確に申告しており、被告会社が法人税を免れた事実はない旨主張しており、被告人も公判廷において同様に述べるので、以下当裁判所の判断を補足する。

二  公訴事実第一について

1  明細表番号一ないし八の各取引について

(一) 昭和六二年三月期の確定申告書、右各取引に関する各契約書写し(甲一一号証)、土地建物売上調査書、仲介手数料収入調査書、土地建物仕入調査書、不動産取引に関する各調査報告書(甲九二ないし九九号証)、塚原安雅その他右各取引の相手方の大蔵事務官に対する各質問てん末書(甲一二ないし二八号証)その他関係各証拠によると、右各取引は、その契約書上はいずれも有限会社フジエンタープライズ(以下、単に「フジエンタープライズ」という。)が買い入れて(ただし、明細表番号八の物件は被告会社名義で仕入れ、フジエンタープライズ名義で売却している。)、これを第三者に売却し、被告会社はこれを仲介したとの形になっているが、フジエンタープライズは、菅原孝男が代表取締役、被告人が取締役として登記がなされているものの、全く経営実態のない被告会社のダミーで、実質上の契約当事者はフジエンタープライズではなく、被告会社であり、したがってその各取引による利益は、売買益及び仲介手数料収入とも被告会社に帰属するものであること及びこれらの全部または一部が被告会社の所得として申告されていないことが明らかである。

(二) これに対し、弁護人は、被告会社に右売買益及び仲介手数料収入が存在するとしても、明細表番号一ないし八の各取引について、被告人が、昭和六二年三月期に確定申告をするに当たって土地譲渡益重課税制度による税率計算についての知識がなかったため、この税率計算を省略する方法として収入又は資産の部の勘定科目の金額の一部を減額し、これに対応する支出又は負債の部の勘定科目の金額の一部を対当額で減額する方法(被告人のいう「両落とし」の方法)で「圧縮」減額して記帳した(被告人のいう「圧縮経理処理」)のであって、所得には変更を加えておらず、したがって脱税にはあたらない、圧縮経理処理の内容は、弁護人提出の平成五年一月二六日付上申書に添付された被告会社作成の損益計算書(以下、単に「上申書添付損益計算書」という。)のとおりであって、不動産取引に基づく売上金額は、仕入金額を減額したことに対応して減額した外、定款以外の貸金業務行為を隠すために、貸金業務関係の貸倒損失金額を減額したことに対応して減額したもので、その他、受取利息金額、旅費交通費などを減額したと主張する。また、上申書添付損益計算書を補うため、平成五年二月一五日付上申書で、帳簿において欠落している科目を再現したという帳簿(以下、単に「再現帳簿」という。)を提出している。

(三) そこで、弁護人の主張を判断するため、まず、上申書に添付損益計算書の科目及び金額のうち、検察官の冒頭陳述書に添付された損益計算書(以下、単に「冒頭陳述書添付損益計算書」という。)中に科目がない貸倒損失が存在したかどうかを検討し、次に貸倒損失以外の科目及び金額について検討する。

2  貸倒損失の存否について

弁護人は、昭和六二年三月期における貸倒損失の存在を主張する根拠として、被告会社が貸金の広告を出していた新聞広告の写し、貸金業に関する印刷物を依頼した業者からの請求書の写し、被告人が作成したという昭和五五年三月期及び昭和五七年三月期の各試算表、被告会社が帳簿から再現したという上申書添付損益計算書及び脱落している科目の再現帳簿並びに証人後藤一の公判廷における供述を指摘する。

しかし、右の各証拠や上申書添付損益計算書等を検討すると、〈1〉新聞広告の写しは昭和五二年九月一六日から昭和五三年一二月二〇日までのものしかなく、請求書の写しも昭和五二年九月九日から昭和五四年一一月二〇日までのものしかないこと、〈2〉昭和五五年三月期のものという試算表には、貸付金が一九三七万九一五二円、受取利息が一二二五万七六六四円、延滞利息が四二万六一六〇円、貸倒損失が二九万三四四九円などと記載され、昭和五七年三月期のものという試算表には、貸付金が一四八八万九八六八円、受取利息が一一二二万二五七〇円などと記載されていること、〈3〉上申書添付損益計算書及び再現帳簿のうち貸倒損失に関する部分は、作成するについての対象、方法などがなんら具体的に説明されていない(なお、各差押てん末書及び証人益子光彦の供述等によれば、各捜索差押の時点において、貸付台帳、顧客名簿等、貸金の存在を具体的に裏付けるべき帳簿等が見当たらず、押収されなかったものと認められる。)こと、〈4〉被告人の実兄で昭和五六年九月ころまで被告会社に在籍した証人後藤一は公判廷において、その退社当時の被告会社の貸付金額を約二〇〇〇万円と供述しているが、その具体的根拠は不明確で、また、合理的理由もないのに何度も訂正していることなどが認められる。

以上の各事実からすると、被告会社が、昭和五三年の設立当時から昭和五四年終わりころまで、実質上貸金業も行っていたことについては認められるとしても、いまだこれらの証拠によっては昭和六二年三月期において未回収の貸金が残存していたことをうかがわせるものとまではいえない。

のみならず、右の各事実の外に、関係各証拠を検討すると、〈5〉証人後藤一は、公判廷において、供述が変転して必ずしも明らかではないが、遅くとも昭和五五年ころにはほとんど新規の貸付を行っておらず、もっぱら貸金の回収をしていたと供述していること、〈6〉被告人は、国税局による調査段階から公判の途中まで貸倒損失については全く主張していなかったが、第九回公判になって初めて主張し、それまで主張しなかった理由については、その点について聞かれなかったし、最近になって帳簿類の閲覧を許されて気付いたからであるなどと説明していること、〈7〉被告人は、第一〇回公判において、昭和五七年ころ約二〇〇〇万円の不良債権が発生していたので貸金業は止めたと述べながら、第一七回公判になり、昭和五七年三月期において、不良債権が約一四〇〇万円で、その後も継続して貸金業をやって、最終的に損金処理した時点で約二〇〇〇万円余あったと供述したこと、〈8〉被告人は、貸し付けていた人数、金額は分からない、貸倒に関する帳簿類は現在はない、昭和六一年三月期までは貸倒損失で処理したことはないと供述していることなどの各事実が認められる。

以上の各事実のうち、〈1〉、〈5〉、〈7〉を総合すると、被告会社は、遅くとも昭和五七年ころまでには新規の貸金を行わなくなったと認められ、〈2〉からすると昭和五五年から昭和五七年にかけての二年間で全額のおよそ四分の一にあたる約五〇〇万円の貸金が減少している上(被告人は、後藤一が昭和五六年ころに被告会社を退社する際、被告会社の貸金に関する債務の一部を負担することになり、貸金額が減少した旨の説明をしているが、後藤一が被告会社を辞める際に、貸金業のために借り入れていた資金の債務を肩代わりしたとしても、そのことによって貸金額が減少するものとはいえない。)両期の受取利息額を対比してみても貸金中の不良債権額が増加しているとはいえず、〈5〉のとおり被告会社は貸金の回収に努めていたことからすると、昭和五七年三月期に約一四〇〇万円であった貸金が、昭和六二年三月期の段階で二〇〇〇万円もの貸倒になったとは考えられず、かえって、〈2〉のとおり、昭和五五年の試算表に貸倒損失と記載されていることからして、その時点で貸倒損失の処理がなされていたと推測され、貸倒損失として損金処理できるものはその都度処理されてきていたものと考えられる。これらに加え、〈3〉及び〈8〉のとおり、被告会社の再現帳簿や被告人の供述には具体性がない上、〈6〉、〈7〉のとおり、被告人の供述は種々変遷しており、その変遷について合理的な理由は認められない。

以上の事実並びに証人益子光彦の供述及び関係各証拠によって認められる「圧縮経理処理」の実情等を総合勘案すると、昭和六二年三月期において、弁護人の主張する貸倒損失については、それが存在しないとの認定に合理的疑いを差し挟む余地はなく、右主張は採用できない。

3  貸倒損失以外の科目及び金額について

(一) 弁護人は、上申書添付損益計算書の売上や支払利息などの科目や金額が冒頭陳述書添付損益計算書中昭和六二年三月期分の科目や金額と異なっており、上申書添付損益計算書が正しい数字であると主張するので、右の点についてこれを検討する。

(1) 売上について

上申書添付損益計算書の売上の科目(土地建物売上の科目及び仲介手数料収入の科目の双方が含まれている)と冒頭陳述書添付損益計算書のそれを比べてみると九二万二〇〇〇円の差が生じることとなるが、仲介手数料収入調査書、松尾裕幸の大蔵事務官に対する質問てん末書、押収してある昭和六一年度の元帳(平成三年第九六号の一)及び証人益子光彦の供述と再現帳簿を対比してみると、上申書添付損益計算書の売上の科目には、株式会社エスコア仙台と門間正一との間の売買取引を仲介したことによって、昭和六一年七月二八日に受領した七五万円と一〇万円の合計八五万円の仲介手数料と株式会社リオチェーンの賃貸借を仲介したことによって昭和六二年三月二日に受領した七万二〇〇〇円の仲介手数料が含まれていないことが認められる。

この点につき、被告人は、株式会社エスコア仙台に対する取引の仲介により受領した手数料は二五万円だけであり、帳簿に記載があり申告していると供述するが、松尾裕幸の大蔵事務官に対する質問てん末書の記載及び同てん末書に添付された領収証の写からすると、被告人のいう二五万円以外に仲介手数料八五万円があったことは明らかであり、被告人の右の点に関する供述は信用できない。また、被告人は、リオチェーンの賃貸借を仲介したことによる手数料は、契約金や敷金などとして預かっていた金員のうちから、翌年度である昭和六二年四月一〇日に受け取り、帳簿に記載して六二年度で申告してあると供述するが、昭和六二年度の元帳を検討すると、確かに四月一〇日にリオチェーンから金員を受け取った旨の記載があるが、その科目は預り金で、金額は七万四五〇〇円、七万四五〇〇円、二一万六〇〇〇円となっているだけであり、この中から手数料収入を得たという記載はないし、その他これをうかがわせる帳簿などの証拠はない。これに対して、右元帳冒頭の科目を明示していない帳簿中、昭和六二年三月二日のところに記載されている摘要リオチェーンの金額が、右両損益計算書間の差額に当たる七万二〇〇〇円であるところ、当該部分の科目は仲介料ではなく手付金と記載されているものの、前記仲介手数料収入調査書においては、家賃預かり台帳及び取引台帳綴等によって手数料収入と認定しているのであって、右調査書の他の部分と同様に十分に信用することができるというべきである。

(2) 支払利息について

上申書添付損益計算書の支払利息の科目と冒頭陳述書添付損益計算書のそれとを比べてみると、約四〇〇万円の差が生じることになるが、支払利息調査書、押収してある昭和六一年度の元帳(平成三年第九六号の一)及び証人益子光彦の供述と再現帳簿とを対比してみると、冒頭陳述添付損益計算書の支払利息の科目においては、大成名義の支払利息に当たる金額が減額されていることが認められる。

この点につき、被告人は、公判廷において、被告人から被告会社に貸付金があって、これについての被告会社の被告人個人に対する支払利息があるのであり、被告人の名前を出したくなかったから大成という名前を使っただけであると供述している。しかし、被告会社の帳簿に大成名義の借受金の記載はあるものの、被告人から被告会社に貸し付けたことをうかがわせる証拠はないこと、被告人が真実の数字であるとする各試算表からすると、いずれの年においても多額の所得が認められるのにいずれの年についても右所得が申告されておらず、相当額の利益を留保していたと認められること、被告人は、国税査察官による調査の段階から検察官の捜査の段階を経て公判の途中まで、支払利息の一部を否認し、そのため種々弁解を変遷させていながら、右のような弁解が一度もなかったことなどからすると被告人の右弁解は信用することができない。

なお、弁護人は、証人益子光彦が、大成名義の支払利息を否認したので冒頭陳述書添付損益計算書中の昭和六二年三月期の支払利息の金額と上申書添付損益計算書の同科目の金額との差額が生じたと供述したことに対して、押収されている帳簿中大成名義の支払利息を拾い上げると、右差額はより少額になるはずであって、冒頭陳述書添付損益計算書は信用できないというが、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度の大成名義の支払利息を合計すると、ほぼ右差額どおりであり、弁護人の主張は理由がない。

(3) 仕入について

上申書添付損益計算書の仕入の科目と冒頭陳述書添付損益計算書のそれとを比べると、約三五万円の差が生じることになるが、土地建物仕入調査書、雑費調査書、押収してある昭和六一年度の元帳(平成三年第九六号の一)及び証人益子光彦の供述と再現帳簿とを対比してみると、上申書添付損益計算書の仕入の科目に含まれている収入印紙代など公租公課関係の費用が冒頭陳述書添付損益計算書においては、雑費に計上されていることが認められる。

この点につき、被告人は、右差額について、登記料であるとしながら、その差額が何から生じたか分からないなどと述べるが、右のとおり、雑収入調査書、雑費調査書等と再現帳簿とを対比してみると、昭和六一年一〇月七日付仙台弁護士協同組合印紙代の他、四月二五日付、五月二一日付及び六月一六日付の各費目が、冒頭陳述書添付損益計算書では雑費ないし雑収入に、上申書添付損益計算書においては仕入の科目にそれぞれ仕訳されており、これが右差額となっているものと考えられ、冒頭陳述書添付損益計算書の額に誤りはない。

(二) 以上主要な点について見たとおり、上申書添付損益計算書は脱落している項目があったり、根拠がない項目があるなどしていて、信用することができず、その他旅費交通費等の科目についても右各科目についての調査書その他関係各証拠から冒頭陳述書添付損益計算書の計上のとおり認定できる。

三  公訴事実第二、第三について

1  明細表番号九ないし一六の取引について

(一) 右各取引についても、明細表番号一ないし八のそれと同様に、その契約書上は物件をいずれもフジエンタープライズが買い入れて(ただし、明細表番号一四は被告人名義の土地とその地上のフジエンタープライズ名義の建物をフジエンタープライズ名義で売却し、また、明細表番号一五の物件は後藤浩名義で取得し、フジエンタープライズ名義で売却している。)、これを第三者に売却し、被告会社はこれを仲介したとの形になっているが、実質上の契約当事者はフジエンタープライズではなく、被告会社であり、したがってその取引による利益は、売買益及び手数料収入とも被告会社に帰属するものであること及びこれらの全部または一部が申告されていないことは、昭和六三年三月期及び平成元年三月期の各確定申告書、右各取引に関する各契約書写し(甲一一号証)、土地建物売上調査書、仲介手数料収入調査書、土地建物仕入調査書、不動産取引に関する各調査報告書(甲一〇〇ないし一〇七号証)、小松庚太郎その他右各取引の相手方等の大蔵事務官に対する各質問てん末書(甲二九ないし五一号証)等の証拠を対比することによって明らかである。

(二) これに対し、弁護人は、明細表番号一〇ないし一六の各取引について、被告人やその家族の者の名義の預貯金を取引代金にあて、代金が不足する場合には被告会社から借入れすることもあったが、会社の経理上被告人に対する仮払金として経理処理されていたのであるし、各取引によって得られた売買代金は、被告人やその家族の者の名義の預貯金にしていたのであって、各取引は被告人個人に帰属し、被告会社はこれらの取引を仲介したものの、その手数料収入は正確に申告しており、したがって、売買益及び仲介手数料収入について法人税を免れた事実はないとする。そこで、右各取引が被告人個人の取引であるかどうかについて検討することとする。

なお、明細表番号九の取引に関する収入及び明細表番号一〇ないし一六の取引についての仲介手数料収入につき、弁護人は正確に申告しているというが、その根拠は示されておらず、前記のとおり、関係各証拠を検討すると、右各収入の全部又は一部を申告しなかったという検察官の証明は十分である。

(三) 各取引の帰属について

(1) 弁護人は、明細表番号一一の取引について、被告人が被告会社の取引と認めたわけではないと主張するが、当該不動産の仕入の資金手当ては、フジエンタープライズに対する転貸資金という理由で、被告会社が三井銀行から借り入れたものを当てているし、また、この方法は、被告人が被告会社の取引と認める明細表記載の番号九までの取引のうち、金融機関から被告会社が借り入れて代金に当てた取引の場合となんら異なることのない方法であって、右取引は被告会社に帰属すると認められる。

(2) そこで、明細表番号一〇及び一二ないし一六の取引について検討すると、確かに被告人の主張するとおり、不動産の仕入代金の一部は被告人やその家族の者などの名義の預貯金から支払われているけれども、証人益子光彦の供述その他関係各証拠によって右預貯金の形成過程及び各取引によって得た売買代金の使途を検討すると、(1)のとおり被告会社の取引であると認められる明細表番号一一の取引によって得た金員が、被告人の名義で預金され、これが明細表番号一〇の取引の仕入代金に当てられており、また、右預金及び被告会社からの出金が明細表番号一二の取引の仕入代金に当てられているなど、明細表番号一〇及び同一二ないし一六の取引においては、結局それまでの取引によって得られた金員を被告人やその家族の者などの名義の預貯金とし、これを被告会社の資金と併せてその後の取引の仕入代金に当てているのである。そうすると、被告人やその家族の者などの名義の預貯金というのは、もともと被告会社の資金によって形成されたものであるといわざるを得ず、各取引における仕入代金の支払いに当たって出金した預貯金の名義のいかんに関わらず、また、各取引によって得た金員を預貯金するに当たって使用された名義のいかんに関わらず実質的に被告会社の資金によって取引が行われていることは明らかである。

(3) なお、明細表番号一四の取引についてさらに補足すると、被告人は、本件の土地はもともと被告人個人の所有する土地であって、名義だけ一時的に被告会社にしていたものであると述べるが、関係各証拠によると、確かに本件土地は被告人個人名義で購入されたものであったことは認められるところであるけれども、その後、被告会社の資産として計上され、被告人が当初購入した際の残代金及び金利が被告会社から支払われ、かつ、被告会社の資金及びそれまでの取引によって得られた金員から本件土地上の建物の建築資金が出資されており、他方、これが売却されるについては、被告人が被告会社に売り渡したのと同額で被告会社から買い受けた旨の帳簿処理がなされているなどの事実も認められ、これらによれば、当該不動産は被告会社の資産であって、第三者に売却するに当たって名義を被告人に変更しただけであると認められる。以上に加え、被告人の調査、捜査段階からの供述が、当初フジエンタープライズの取引であると主張し、その後全部被告会社の取引であると認め、公判廷に至って明細表番号一四の取引は被告人個人の取引である、全部が被告人個人の取引である、明細表番号一〇以降の取引が被告人個人の取引であるというように変遷を重ね、変遷したことにつき合理的理由は認められないことからすると、被告人の弁解は信用することができない。

(4) 以上のとおり、明細表番号一〇ないし一六の各取引についても被告会社に帰属すると認められる。

2  弁護人は、右の各主張が認められないとしても、〈1〉公訴事実第三記載の所得金額は、明細表番号一五の取引において、針生アイに売り渡した代金が違うため実際所得金額よりも多い、〈2〉仮に〈1〉が認められないとしても、明細表番号一五の取引は土地だけでなく建物も含むものであるから、公訴事実第三記載の所得に対する法人税はより低額になるはずである旨各主張する。

しかし、〈1〉については、針生アイの検察官に対する供述調書及び佐々木勝の検察官に対する平成三年一〇月一七日付供述調書によると、明細表番号一五のとおりの売買代金が認められることは明らかであるし、〈2〉については、土地譲渡税額調査書等によれば、土地と建物を別々に評価して税額を計算していることが明らかであって、公訴事実記載どおりの税額が認められる。

四  以上検討したとおり、弁護人の主張はいずれも採用することができず、本件法人税法違反の事実は、その証明十分である。

(法令の適用)

罰条

第一から第三の各事実

被告人につき 各法人税法一五九条一項

被告会社につき 各法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

刑種の選択

被告人につき 懲役刑

併合罪の処理

被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第三の罪の刑に法定の加重)

被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項

刑の執行猶予

被告人につき 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人が、被告会社の代表取締役として、三年間にわたり、被告会社が不動産売買取引をするに当たって、いわゆるダミー会社を利用して取引をし、また、その取引の仲介も兼ねることによって、売買益及び仲介手数料収入の双方を得て相当の利益を上げているにも関わらず、所得を零又は低額に申告して法人税を免れたという事案である。

被告人が内容虚偽の申告をして被告会社が法人税をほ脱した期間は三年間にわたっており、ほ脱した法人税額は三年間で合計一億二六〇〇万円余という高額に及び、そのほ脱率も、公訴事実第一につき一〇〇パーセント、公訴事実第二につき約九九パーセント、公訴事実第三につき約九八パーセントといずれも非常な高率にのぽる。被告人は、好景気の下で不動産が高騰していた折、ダミー会社に売買取引の主体を演じさせ、被告会社がこれを仲介するという手段を取り、高額の利益を上げながら、得た利益を被告人やその家族の者の名義の預貯金にするなどして隠匿し、不正に留保している利益の発覚を免れるために預貯金を転々と移動させるなど、大胆にして巧妙な手口で行われており、犯情極めて悪質であるというべきである。

しかしながら、被告会社が、後にほ脱額や重加算税など約二億円を完納していること、被告人は、本件発覚後、被告会社の取締役や関係団体の役員を辞任し、社会的制裁の一部を受けたともいえること、被告会社及び被告人にこれまで前科はないことなど被告人らに有利な情状もあるので、これらを総合考慮の上、被告人らをそれぞれ主文の刑に処し、被告人後藤勉については、特にその刑の執行を猶予するのを相当と認める。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千葉勝郎 裁判官 合田智子 裁判官 善元貞彦)

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